ショーウインドーを撮り始めたのは、雑誌の仕事でパリに行く時、

知り合いの編集者から

「パリに行くならショーウインドーの写真も撮って来てよ」

と頼まれたのがきっかけだった。

 

これがなければ自分からは選ばないテーマだったと思う。

パレロワイヤルの廻廊、パッサージュ、マレー地区、サンジェルマン・デ・プレ、セーヌ河岸 などパリの美しさの王道を行く場所はやっぱり素敵。

でもちょっとすましている印象だった。

「よそ者にあたしの魅力なんて簡単に教えないよ」とでも言ってるかのよう。

 

でも深夜人通りがなくなった頃、三脚を抱えながら街を徘徊していると、

昼間は見えてなかった パリが見え隠れしてきて、

ツンツンしていたパリもようやく少しづつ心を開いてくれたようだった。

 

数年後、この街に暮らすことになって私は

「美しいパリ」に心惹かれながらも移民の街のウイ ンドーが気になってきた。

 

マレー地区のユダヤのウインドーは、ユダヤ教の奥深い世界を垣間見せてくれたし、

アラブ 人街のウインドーも興味深かった。

キラキラ光る民族衣装、コーランや美しいアラビア文字の本、

何の薬か分からない埃をかぶ った瓶や怪しげな媚薬。

四角の空間の中には小さな宇宙があって、じっと見ていると飽きなかった。

 

カセット屋やクスクス屋の並ぶバルベスの路地のウインドーを見ながら、

私はいつかこの人たちの世界を見てみたいと思うようになった。