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バスを降りると前方にゆるい坂道が続いていた。
夕方なのに日差しは強く、荷物を引きずりながらこの坂を登るの
は少しきつかった。
下方を見ると谷あいにぽつんぽつんと家があり、また少し歩いて
行くと前方に中世のような村の風景がゆっくりと姿を現した。
ここはパリから南へ600キロ。オキシタン地域圏、アヴェロン県
の山間にある村コンク。
スペインのサンティアゴ・コンポステーラへの重要な要所として
古くから多くの巡礼者を集めて来た小さな村だ。
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予約していた宿は村の道なりにあり、部屋は二階だった。
窓を開けると目の前にサント・フォア教会があり道には赤いバ
ラ、中世の佇まいを残す建物群が眼下に広がっている。
そこへ教会の鐘が鳴り響いて御伽の国にきたような気分になっ
た。「今晩9時に教会の前で神父様の講話があり、その後でコン
サートがあるの。よかったら行って見たら」。
宿の奥さんの勧めに従い夜は教会に行ってみることにした。
その前に夕ご飯をどっかで食べよう。
村にいくつもないレストランは団体客で満員。ようやく見つけた
店で簡単な定食を注文した。
メニューは地元の生ハム、サラダ、カンタルチーズ、そしてト
リュファード。
トリュファードというのはジャガイモにオーヴェルニュ地方のカ
ンタル村で作られるトムフレーシュチーズとニンニクを加えて調
理したもので、コンクのすぐ北にあるカンタルの羊飼いが山
小屋で過ごす時、手近な材料で作ったものがルーツと云われている。
この料理によく似たものでアリゴというものもあるけど、これは
ジャガイモのピューレーに生クリーム、バター、トムフレーシュ
を加え、餅のように伸びるまでよく練ったもの。
この地方の修道僧がここを通りサンティアゴ・デ・コンポステー
ラへ巡礼に行く人々の為に作ったという。
その後、フランス革命で修道院は破壊されたが、地元の農民がそ
れを伝授し19世紀になってパリに出稼ぎに行ったアヴェロンや
オーヴェルニュ出身のBougnats(ブーニャ)と呼ばれていた人々
がパリでアリゴを広めたと云われている。
私がここで食べたトリュファードはベーコンポテトに似た素朴な
味。地元のハムとの相性も良かった。
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夕食後、教会に行きパイプオルガンの演奏を聴いた後、外に出る
とさっきまで明るかった空はもう暗くなって夜が始まろうとしていた。
振り返って見ると教会の前にいた人の姿がシルエットになって夜
の闇に消えようとしている。
この時刻になるとコンクの村は中世の頃にタイムスリップしたよ
うな雰囲気になって、一層いい感じになっていた。
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翌朝、早起きして窓を開けると、外は朝もやに覆われている。
急いでカメラを片手に外に飛び出して歩き回っていると7時頃に
はもうもやは消えてしまい、いつものような村になっていた。
でも朝もやの中に浮かんでいたサント・フォア教会を見られただ
けでいい。
コンクは早朝と深夜だけ特別に自分のいいところをこっそり見せ
ているようだった。
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